知っておきたい、猫がかかりやすい病気とケア[獣医師アドバイス]
猫は具合が悪くても飼い主に悟られないように痛みを我慢する習性があります。野生で暮らしていた頃は、ほかの動物に弱みを見せたら攻撃されて命を落とすことがあるので、安全な室内飼育になっても病気を隠す習性が残っているのです。病気の早期発見のためには、飼い主さんは猫がかかりやすい病気の知識をもつことが大切です。
かかりやすい病気の代表格は泌尿器系
「泌尿器」は尿を作って体外に排出することに関わる器官の総称です。腎臓、尿管、膀胱、尿道などが含まれます。猫は腎臓が体に対して小さいわりには濃い尿を作って出すので、腎臓の仕事量が多く負担がかかっています。そのため機能的にも構造的にも年齢とともに腎臓病が増え、様々な尿路の病気が多くなります。
●下部尿路疾患
膀胱から尿道の出口までを「下部尿路」といい、「下部尿路疾患」とはここで起こる病気の総称です。猫に多いのは【尿石症(尿路結石症)】と【膀胱炎】です。
【尿石症】は、尿の中のミネラル分が固まってできた結石が膀胱や尿道を傷つけることで炎症が起こる病気です。血尿や頻尿などの症状がみられます。尿道に結石が詰まると尿道閉塞が起こり、尿毒症を起こして危険な状態になります。尿が濃くなると結石ができやすくなるので、日頃から水をたっぷり飲めるように工夫しましょう。
膀胱に炎症が起こる【膀胱炎】では、血尿や尿のにごり、排泄時の痛みなどの症状がみられます。原因がわからない場合が多く、「特発性膀胱炎」とも呼ばれます。ストレスが大きな原因になると考えられ再発をくり返すことも多いので、治療とともにストレスを軽減する対策を取ることが重要です。
●慢性腎臓病
高齢猫のもっとも代表的な病気です。加齢による腎機能の低下が原因で、15歳以上の猫の約8割は腎臓病を持っていますが、初期では目立った症状がないので気づきにくく、たくさん水を飲んで大量の尿を出す症状が現れる頃には、腎機能の7割近くが失われている状態です。さらに進行すると腎機能をほとんど失う腎不全になり、最後には尿毒症が認められ死に至ります。慢性腎臓病によって機能が低下した腎臓は再生しませんが、早期に発見できれば食事療法や薬で腎臓に負担をかけないようコントロールできます。
食欲不振の原因がお口のトラブルのことも!
口の中を確認しようと思っても猫は口を開けることを嫌がるので、炎症による痛みで食欲不振になるまで気づけないこともあります。
●歯周病
歯垢の中で増殖した歯周病菌が原因で歯肉や歯根膜などに炎症を起こす病気です。3歳以上の猫の約8割が歯周病にかかっているともいわれます。歯肉の腫れや口臭がみられ、進行すると化膿して歯が抜けます。放置すると血流を介して歯周病菌が全身に運ばれ、肝臓や腎臓、心臓などに悪影響を及ぼす可能性もあります。
歯周病の一番の予防は歯垢をためないこと。できるだけ毎日の歯磨きを習慣にしてください。すでに歯石がたまっている場合には、動物病院で麻酔をかけて歯石除去を受けましょう。
●口内炎
口の中の粘膜に炎症が起こり、ただれや潰瘍などがみられます。口臭がきつくなってよだれも増え、痛みも伴うため食欲があるのに食べられなくなります。原因は歯周病のほか、猫免疫不全ウイルス感染症(猫エイズ)や猫白血病ウイルス感染症などに感染して免疫力が低下することで起こるケースも少なくありません。炎症を抑える治療を行いますが、なかなか治らない場合は抜歯することもあります。免疫力を低下させないように、日常の健康管理をしっかり行ってください。
突然死することも! 循環器の病気
全身に血液やリンパを流通させる器官をまとめて「循環器」といい、その代表的な臓器が心臓です。突然死することもある心筋症に注意が必要です。
●肥大型心筋症
遺伝性とされる心筋症にはいくつかのタイプがありますが、猫に多いのは肥大型です。おもに心臓の左心室の筋肉が厚くなって左心室が狭くなることで心臓の機能が低下します。元気や食欲がなくなり、肺に水がたまると呼吸困難になります。血栓ができやすくなり、後ろ足の血管が詰まり、それが影響して足を引きずって歩くこともあります。血栓が詰まることでショック症状を起こして死に至ることがあるので、治療のタイミングが重要になります。
食べるのにやせるときには要注意! 内分泌の病気
内分泌とはホルモンのことで、体のさまざまな働きを調整する役割があり、いろいろな種類があります。ホルモンが正しく分泌されなくなれば、体に変調を来します。
●甲状腺機能亢進症
新陳代謝を促し、体温を保つ働きをする甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気で、10歳以上に多くみられます。急に活動的になって落ち着きがなくなり食欲も旺盛になりますが、体重は減少します。たくさん水を飲み、尿の量も増えます。薬で甲状腺ホルモンの量を下げて症状を落ち着かせるほか、甲状腺を取り除く手術を行うこともあります。
●糖尿病
血液中の糖を細胞に取り込む働きをするインスリンが不足、あるいはその働きが減少することで起こる病気です。尿の量が増えてたくさん水を飲むようになり、食欲があるのにやせていきます。血糖値が上がることでインスリンを分泌する膵臓の内分泌部はさらに壊れます。インスリン投与と食事療法で血糖値を下げる治療を行います。肥満の猫に多くみられるので、体重管理をしっかり行いましょう。
普段のケアと定期健診で早期発見
猫がかかりやすい病気の中には、食事管理や日頃のケア、環境づくりなど、日常生活の過ごし方によって発症をおさえることができるものもあります。また異常を早期発見するためにも、自宅での健康チェックをしっかり行い、年に1回以上は動物病院で定期健診を受けましょう。
(監修:石田卓夫先生)