顔も体も触れる犬は長生きできる。健康チェックに役立つ練習を始めよう[ドッグトレーナーアドバイス]

「愛犬を触れる」と思っていても、実は犬が要求したときだけというケースも少なくありません。いつでもどこでも触ったり抱っこができたりすると、日頃のケアや動物病院での診察に役立ち、長生きにつながります。

顔や体を触れることが役立つときは?

毎日のケア、健康チェック、トリミング、病気・けがの治療などを行うためには、顔や体を触れることが大前提。触れなければ愛犬の健康を守るのが困難になり、寿命にも悪影響を及ぼし兼ねません。嫌がらないように日頃から触る練習をしておけば、実際に必要となったときに過剰なストレスを与えずに済みます。「触れる=接触」「抱っこ=拘束」と分けて考え、どちらも練習しておきましょう。

接触や拘束の練習が必要な理由

●練習をしなければ恐怖を感じ、我慢するのが難しい
犬にとって不意の接触や拘束は危機的状況で、恐怖を感じやすくなります。人は健康チェックや病気の治療などの必要な理由を理解できますが、犬は理解できません。また脳の前頭葉が人ほど発達していないので、感情を抑えて我慢するのが困難。接触や拘束に慣れる練習を行い、心地よい経験を積ませることが大切です。

●気が向いていなくても触れるように練習する
気が向いているときは触られることが好きでも、意図していないときに触られるのは犬にとってもあまり好ましくありません。これは人も同じでしょう。
しかし、動物病院での治療や健康管理は、犬の気が向いていなくても体を触ったり拘束したりしなければならないので、子犬の頃から接触や拘束に楽しい経験を結び付けておくと愛犬の負担を減らすことができます。これを怠ると、スキンシップは可能でも、動物病院での治療や検査ができなくなる可能性があります。犬の健康を守るためにも練習を始めましょう。

触れるようにしたい部位とやってはいけない触り方

触れるように練習しておきたい主な部位を紹介します。歯みがきなどの日常のケアに加え、動物病院での診察の練習になります。

●触れるようにしておきたい部位
接触に慣らす練習を行う時期は、子犬の社会化期(3~12週齢)が最適です。それ以降は慎重に行う必要がありますが、慣らすことは十分可能です。最初は脇腹をやさしくゆっくり撫でることから始め、ほめ言葉をかけたりごほうびをあげたりしながら、無理せず少しずつ練習しましょう。

・四肢の末端(手足の先)を軽く握る→足ふきができるように
・爪を人の指や爪やすりでこする→爪切りができるように
・指を触る→爪切りができるように
・指の間(水かき)を触る→足裏の毛をきったりできるように
・肉球の間を触る→足裏の毛をきったり、足裏が怪我していないか確認できるように
・耳の付け根をもむ→耳掃除ができるように
・耳の中に指を入れる→耳掃除ができるように
・目の周りを触る→目の周りをふけるように
・マズルを触る→歯磨きができるように
・唇をめくる→歯磨きができるように
・歯ぐきを触る→歯磨きができるように
・尾を触る→お尻周りを確認できるように

●触り方のNG例
「愛犬は触られるのが苦手」と思っている飼い主さんの中には、犬が嫌がる触り方をしているケースが少なくありません。それをやめるだけでも改善する場合もあります。

・寝ているときに触る
・わしゃわしゃと顔を撫で回す
・大きな声でテンションをあげながら触ろうとする
・嫌がっているのに無理に触る

抱っこの練習とありがちNG例

抱っこは軽く拘束される状態なので、接触に慣れていない犬は身動きがとれず嫌がることもあります。しかし哺乳類は抱っこされることで精神的に落ち着くので、練習を行えば抱っこされた状態でリラックスできるようになります。

●抱っこの練習
基本的な抱っこの姿勢を確認しましょう。犬のサイズによって抱え方にコツがあります。練習方法がわからない場合や実践が難しい場合は、すぐ専門家に相談するとよいでしょう。

・ホールディング(あおむけの状態)で抱かれてもリラックスしていられるようにする。特に中・大型犬は成長してからホールディングの練習は難しいため、子犬の頃から慣らしておく
・成長して大きくなった中・大型犬は、オスワリの状態で後ろから抱える。また、横たわった状態で動かないでいられることに慣らしておく

●抱き方のNG例
犬が嫌がる抱っこの方法をいくつか紹介しましょう。これらをやめるだけでも落ち着いて抱っこができるようになることがあります。

・正面から覆いかぶさる
・正面から両脇を抱える
・前足をつかむ
・尻を支えず宙吊りになる
・安定して犬を支えることができない子供に抱かせる(特に幼児)

練習が難しい場合はしつけの専門家に相談

触ったり抱くことが上手にできない場合や、犬がすでに接触を嫌がっている場合、同じやり方で触り続けても慣れることはなく、むしろ抵抗が激しくなって関係も悪化していきます。早めにしつけの専門家へ相談しましょう。

若い頃は問題なくても、老犬になって嫌がるようになることがあります。高齢になると五感が衰え、認知能力が低くなって警戒心や不安が強くなります。人の接近に気づくのが遅れ、不意に触られたり抱っこされたりしたように感じて驚いて噛みつくことも。生涯にわたって練習を習慣にしておきましょう。

(記事監修:鹿野正顕先生/スタディ・ドッグ・スクール代表)