保護したノラ猫、迎えたばかりのおとな猫など…。ビビリ猫と距離を縮める方法[獣医師アドバイス]

それまで外で暮らしていたノラ猫を家に迎え入れたり、動物愛護センターや保健所、保護団体などのもとから譲渡されてやって来た「保護猫」。初日から飼い主さんにでれでれのフレンドリーな猫もいれば、新しい環境や人の存在に馴染めず、しばらく人の存在に怯えたり、スキンシップを怖がることもあります。そんな猫を無理やり人に慣れさせようとしても余計に怖がらせてしまい、うまく関係性を築くことができません。数日で慣れる猫もいれば、何年か経ってやっと触らせてくれるようになる猫もいます。焦らず根気よく、徐々に距離を縮めていきましょう。

社会化期に保護した猫は慣れさせやすい

動物にはほかの個体とのコミュニケーションを学ぶ「社会化期」というものがあります。猫の場合、生後およそ3〜9週齢頃が社会化期にあたり(諸説あり)、まだ警戒心が薄く、好奇心が強い時期。この頃に人と接して「怖くない存在」と学んだ猫は、人に対して攻撃性を持ちにくい傾向があります。

社会化期を過ぎても月齢が低いほど人馴れさせやすいので、子猫のうちに迎え入れた猫なら、全身をまんべんなく触って体を触る感覚に慣れさせたり、複数の人と接する機会を持つようにするといいでしょう。また、爪切りや健康相談だけでもいいので定期的に動物病院へ連れていき通院に慣れさせておくと、年を重ねたり、病気になってからの通院の負担も軽減できます。

人に慣れるまではケージ飼いを

しかし、一部にはもともと生まれ持った性格の問題から社会化がうまくいかない猫もいます。また、子猫のときに人と接する機会が少ないまま成長したり、人の行為によって怖い思いを経験した猫は人を怖がりやすくなります。逃げて隠れてしまうような猫は、安全なお世話のためにも、この先人との距離を縮めるためにも、まずはケージでの暮らしが基本となります。

まずは「人の気配」に慣れさせる

初めからコミュニケーションを図る必要はありません。フードを与えたり、トイレ掃除をしたりと、淡々とお世話をしながら「人の気配」から慣れさせていきます。こちらからは干渉せずに、よくいる部屋にケージを置いて、猫に人の様子をよく観察させてあげましょう。大きな声で喋ったり、大きな音を立てず、できるだけゆっくり落ち着いた動きや声を心がけるのもポイントです。猫の様子が気になっても、じっと見つめると怖がらせてしまいます。目を合わせず、さっとチラ見する程度に留めましょう。

スキンシップは指1本から

ケージ内で猫のほうから飼い主さんに関心を示して近づいてくれるようになっても、いきなり手の平で触ろうとすると、猫は「掴まれる」という感覚になるのか、怖がりやすいです。手で持って与えるウエットタイプのおやつをケージの隙間から差し入れたり、猫同士で鼻と鼻を近づけて互いを認識する“ご挨拶”のイメージで、指を1本だけ猫の鼻先に差し出してみるところから始めましょう。

手を出すと攻撃されそうな場合は、芯をしまったボールペンや孫の手などの長くて尖っていないものから慣れさせて。革製などの厚手の手袋を装着しておくと、ケガを防ぎやすくなります。

問題なく触れるようになったらケージの外へ

猫に触れる指を1本、2本と増やして、手で触っても怖がらなくなったら、いよいよケージの外へ。猫を連れ出すのではなく、扉を開けておいて猫が自分から外に出るまで待ちましょう。まずはケージのある室内だけ開放し、あちこち自由にニオイを嗅がせて好きなだけ“パトロール”させてあげましょう。ケージの扉は開けておき、猫が怖がったら戻れるように。

室内にも隠れられる場所は必要

猫が環境に慣れてきたら、おやつが出てくるおもちゃを活用したり、遊びに誘いながら「楽しいこと」を印象付けていきましょう。猫が生活に慣れてケージを片付けた場合も、来客や大きな音などで怖い思いをしたときに隠れられる居場所は必要です。四方を囲まれた暗いスペースを用意してあげましょう。

人に慣れたといっても、ベタベタされるのは嫌いなままの猫もいます。「猫にも個性がある」ということも忘れずに、愛猫の様子をよく観察しながら、ペースを尊重してあげましょう。

(記事監修:服部幸先生/東京猫医療センター院長)