太ってきたと感じたら要注意!「万病のもと」といわれる肥満のリスクをしっかり理解しよう[獣医師アドバイス]

ぽっちゃりとした猫は愛嬌があってかわいいと感じる人も多いようですが、「肥満は万病のもと」といわれるように、健康面でさまざまなリスクをもたらします。太っていると体にどんな影響があるのでしょうか?肥満のリスクについて解説します。

体のあちこちに負担がかかる

体重が増えすぎて肥満になると体に大きな負担がかかり、病気にかかりやすくなったり持病が悪化したり、さまざまな悪影響を及ぼします。

●関節への影響
体を支える関節や骨に大きな負担がかかり、炎症が起こると慢性的な痛みを伴う【関節炎】の原因となります。猫はしなやかな筋肉で高い所へ軽々とジャンプしますが、実は程度にばらつきがあるものの、12歳以上の猫の9割に【変形性関節症】が認められたという報告もあり(出典:Elizabeth MH et.at. J. Am. Vet. Med. Aaaoc. 220:628-632. 2002)、肥満は悪化させるリスクがあります。

●循環器・呼吸器への影響
心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割をしていますが、肥満で大きくなった体に血液を送り届けるためにはさらに強い圧力が必要となるため、心臓に負担がかかって機能が低下します。肺は心臓から送られてくる血液に空気中から取り込んだ酸素を与え、二酸化炭素を取り除くガス交換を行っているため、心臓に負担がかかれば肺の機能も低下します。

●皮膚への影響
太りすぎると毛づくろいのときに舌が届かない場所が増えるため、体の清潔が保てなくなったり皮膚炎を起こしたりします。

内臓脂肪が臓器の働きを低下させる

肥満によってたまる脂肪には、皮膚のすぐ下につく「皮下脂肪」と、臓器(内臓)のまわりにたまる「内臓脂肪」があります。内臓脂肪が過剰に蓄積されると臓器の機能や免疫機能が低下するため、さまざまな病気にかかりやすくなります。

●消化器への影響
内臓脂肪が増えると膵臓から分泌されるインスリンの働きが鈍くなるため、【糖尿病】にかかりやすくなります。また内臓脂肪が肝臓に蓄積すれば【肝リピドーシス(脂肪肝)】になり、肝臓が正常に働かなくなります。特に肥満の猫では食欲不振が1週間程度続くと、肝リピドーシスを発症して黄疸や意識障害などを引き起こすことがあるので注意が必要です。
さらに脂肪によって腸が圧迫されれば【便秘】の原因にもなります。

●尿石症のリスク
腎臓や膀胱や尿道などの泌尿器に結石ができる尿石症(尿路結石症)は、肥満の猫で発症するリスクが高いことがわかっています。またオスは尿道がカーブしているため、石が詰まって尿道閉塞が起こしやすいのですが、去勢をした肥満のオスでは脂肪によって尿道が圧迫されることでさらにリスクが高まります。

●感染症の悪化
人では内臓脂肪が免疫細胞を老化させるという報告がありますが、猫でも肥満になると免疫機能が低下します。このため、さまざまな【感染症】にかかりやすくなったり悪化しやすくなったりします。

そもそも肥満とはどういう状態?

がっちりとした体型と肥満は違います。一般的に、「適正体重」より15~20%体重が多いと肥満と判断されます。適正体重が4kgの猫ならば、体重が4.6〜4.8kgで肥満というわけです。猫種や猫の体型などによって個体差がありますが、「適正体重」は子猫から成長がストップしたとき、つまり成猫になったときの体重を参考にします。適正体重がわからないときは獣医師に相談し、現在の愛猫の体型から理想とする体重を確認してもらうとよいでしょう。

見て触れて肥満度を確認する

肥満かどうかを判断するもう一つの目安として、猫の体を触ったり見たりして脂肪のつき具合から体型を確認する「ボディ・コンディション・スコア(BCS)」があります。猫の体型を「上からと横から見ること」と、「肋骨に触ること」が確認のポイントになります。

猫の理想の体型は、上から見たときに腰のくびれがわずかに見られる/横から見るとおなかはつり上がっていて脇腹にひだが見られる/体に触ると肋骨が適度に感じられる状態です。上から見て腰のくびれがはっきりしない/おなかのつり上がりはわずかで、脇腹のひだが脂肪で垂れ下がっている/触って脂肪の奥に肋骨が感じられる状態は「肥満気味」、上から見て腰のくびれがない/おなかが丸くて脇腹のひだは歩くとさかんに揺れる/脂肪が厚くて肋骨に触ることができない状態は「肥満」だと判断されます。適正体重と合わせて確認しましょう。

肥満にさせない生活を心がけよう

ある調査によると、日本のペットの肥満率は50%を超えると報告されています。「うちのコはこれくらいがちょうどいい」と思っていても、実は肥満気味あるいは肥満になっているかもしれません。

猫は不妊去勢手術によってホルモンバランスがくずれることや、完全室内飼育では刺激不足や運動不足になりがちなので、きちんと管理しなければ太りやすくなります。人では自分で運動量を増やしたり、食事内容を調整したりして肥満を改善することができますが、猫は飼い主さんによる食事や運動量、体重の管理が重要です。適正体重をオーバーしていたり、ボディ・コンディション・スコアで肥満気味あるいは肥満と判断される場合には、食事をはじめとする生活の改善が必要となります。

肥満は「百害あって一利なし」です。肥満のリスクによってつらい想いをするのは愛猫自身です。健康で元気に長生きしてもらうためにも、肥満にさせないようにしっかりと管理してあげてください。

(監修:石田卓夫先生)