うちのコは大丈夫?肥満は万病のもと!肥満のリスクをしっかり理解しよう[獣医師アドバイス]
ある調査によると、なんと日本のペットの肥満率は50%を超えるという結果が報告されています。「うちのコはこれくらいがちょうどいい」と飼い主さんは思っていても、実は肥満気味になっているかもしれません。「肥満は万病のもと」といわれますが、実際に体にどんな悪影響があるのでしょうか? 肥満のリスクについて解説します。
体重増加で体のあちこちに負担がかかる
体重が増えすぎて肥満になると体に大きな負担がかかり、病気にかかりやすくなったり持病が悪化したり、さまざまな悪影響を及ぼします。
●関節への影響
体を支える関節や骨に大きな負担がかかり、炎症が起こると慢性的な痛みを伴う【関節炎】の原因となります。また腰に負担がかかることで【椎間板ヘルニア】を引き起こしやすくなりますので、ミニチュア・ダックスフンドやウェルシュ・コーギーなどこの病気にかかりやすい犬種では肥満は大敵です。
●循環器・呼吸器への影響
心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割をしていますが、肥満で大きくなった体に血液を送り届けるためにはさらに強い圧力が必要となるため、心臓に負担がかかって機能が低下します。肺は心臓から送られてくる血液に空気中から取り込んだ酸素を与え、二酸化炭素を取り除くガス交換を行っているため、心臓に負担がかかれば肺の機能も低下します。
また小型犬に多い【気管虚脱】は空気の通り道である気管が押しつぶされたように変形することで起こりますが、肥満になると脂肪で気道が圧迫されて悪化することがあります。
●皮膚への影響
太りすぎると、わきや内股がこすれたり、皮膚がたるんで蒸れたりして皮膚炎を起こしやすくなります。
内臓脂肪が臓器の働きを低下させる
肥満によってたまる脂肪には、皮膚のすぐ下につく「皮下脂肪」と、臓器(内臓)のまわりにたまる「内臓脂肪」があります。内臓脂肪が過剰に蓄積されると臓器の機能や免疫機能が低下します。このため、さまざまな病気にかかりやすくなります。
●消化器への影響
内臓脂肪が肝臓に蓄積すれば【脂肪肝】になり、肝臓が正常に働かなくなります。また、内臓脂肪が増えると膵臓から分泌されるインスリンの働きが鈍くなるため、【糖尿病】にかかりやすくなります。さらに脂肪によって腸が圧迫されれば【便秘】の原因にもなります。
●尿石症のリスク
腎臓や膀胱や尿道などの泌尿器に結石ができる尿石症(尿路結石症)は、肥満の犬で発症するリスクが高いことがわかっています。
●感染症の悪化
人では内臓脂肪が免疫細胞を老化させるという報告がありますが、犬でも肥満になると免疫機能が低下します。このため、さまざまな【感染症】にかかりやすくなったり悪化しやすくなったりします。
そもそも肥満とはどういう状態?
一般的に、その犬種の「適正体重」より15~20%体重が多いと肥満と判断されます。適正体重が10kgの犬の場合、体重が11.5〜12kgで肥満というわけです。それぞれの犬種には「標準体重」がありますが、個体差があるため一つの目安に過ぎません。「適正体重」は子犬の成長がストップしたとき、つまり成犬になったときの体重を参考にします。適正体重がわからないときは獣医師に相談し、現在の愛犬の体型から理想とする体重を確認してもらうとうよいでしょう。
見て触れて肥満度を確認する
肥満かどうかを判断するもう一つの目安として、犬の体を触ったり見たりして脂肪のつき具合から体型を確認する「ボディ・コンディション・スコア(BCS)」があります。犬の体型を「上からと横から見ること」と、「肋骨に触ること」が確認のポイントになります。
犬の理想の体型は、上から見たときに腰のくびれがわかる/横から見るとおなかは垂れ下がらずにつり上がっている/体に触ると肋骨が適度に感じられる状態です。腰のくびれがあまりはっきりしない/おなかのつり上がりが甘い/触って脂肪の奥に肋骨が感じられる状態は「肥満気味」、腰のくびれがない/おなかがやや垂れ下がっている/肋骨に触ることができない場状態は「肥満」と判断されます。適正体重と合わせて確認しましょう。
肥満にさせない生活を心がけよう
人では自分で運動量を増やしたり、食事内容を調整したりして肥満を改善することができますが、犬では飼い主さんによる食事や運動量、体重の管理が重要です。適正体重をオーバーしていたり、ボディ・コンディション・スコアで肥満気味あるいは肥満と判断される場合には、食事をはじめとする生活の改善が必要となります。
肥満は「百害あって一利なし」です。愛犬が喜んでごはんやおやつを食べている様子に幸せを感じ、ついつい与えすぎてしまう飼い主さんも多いようですが、肥満のリスクによってつらい思いをするのは他ならぬ愛犬自身です。健康で元気に長生きしてもらうためには、肥満にさせないことこそが、飼い主の本当の愛情なのです。
(監修:石田卓夫先生)