「お尻歩き」は要注意!意外と知らない、猫の肛門腺のケア[獣医師アドバイス]

猫が床にお尻をこすりつけながらズリズリ歩く姿を見たことはありませんか? 「かわいい!」「おもしろい!」なんて思うのは大間違い! こんなしぐさが見られるときには猫はお尻になんらかのトラブルを抱え、とても不快に感じているのでしっかりケアする必要があります。

「お尻歩き」には必ずワケがある

猫がお尻を床につけながら後ろ足を少し浮かせて前足だけで歩くしぐさは、通称「お尻歩き」とも呼ばれます。お尻に違和感があるサインで、肛門を頻繁に舐めるしぐさが見られることもあります。猫がお尻歩きをするときには、次のような原因が考えられます。

●ウンチの切れが悪い
便秘や飲み込んだ毛玉などが引っかかってウンチの切れが悪いと肛門に少しついたままになってしまうことがあり、それを取り除くためにお尻歩きをすることがあります。

●下痢でお尻が汚れている
下痢や軟便などでウンチがゆるいと肛門の周りが汚れて炎症が起こり、かゆみや痛からお尻を床にこすりつけることがあります。

●寄生虫がお尻についている
おなかの寄生虫が肛門のまわりについていることがあります。特にノミが虫卵を媒介する【瓜実条虫】は、ウンチと一緒に出てきた際に体の一部(片節)がちぎれて肛門のまわりを這うことがあるために、お尻がむずがゆくなります。

●肛門の分泌物がたまっている
肛門から排出される分泌液が正しく排出されずに肛門嚢(こうもんのう)という器官の中にたまりすぎると、炎症が起こって【肛門囊炎(肛門周囲炎)】となり、猫はしきりに肛門を舐めたり、お尻を床にこすりつけたりします。お尻が赤く腫れたり、分泌物が漏れて悪臭がすることもあります。

肛門嚢はお尻にある「ニオイ袋」

「肛門嚢」は、肛門を中心として左右にある器官で「肛門腺」とも呼ばれます。スカンクが自分の身を守るために肛門から強烈なニオイのする分泌物を出すことは知られていますが、その分泌物をつくってためておく場所が肛門嚢で、いわばニオイ袋のようなもの。スカンクほど強烈ではありませんが、猫でも独特なニオイのするドロドロした分泌物がつくられ、においつけによるマーキングなど猫同士のコミュニケーションに使われたり、興奮したときなどに飛び出したりことがあります。

通常、この分泌物はウンチと一緒に肛門の横にある小さな穴から少しずつ排出されていますが、ウンチがやわらかかったり、分泌物の粘り気が強くて硬かったり、肛門の周りの炎症で穴がふさがってしまったりすると、うまく排出されないことがあります。分泌物が中にたまりすぎると【肛門囊炎(肛門周囲炎)】になり、細菌感染で化膿すれば肛門囊が破裂して【肛門嚢膿瘍】ができ、周りの皮膚に穴が開いて血や膿が流れ出すこともあります。

分泌物がたまりやすいときは「肛門腺絞り」でケア

犬ではトリミングやシャンプーのときに、分泌物を絞り出す「肛門腺絞り」を行うのが一般的ですが、猫はシャンプーをする機会があまり多くないので、「肛門腺絞り」自体もあまり知られていません。また、猫は犬に比べると分泌物がたまりすぎることはさほど多くはありませんが、体質によってはたまりやすいタイプもいるようです。肛門をしきりと気にして舐めたり、お尻歩きが頻繁に見られる場合には分泌物がたまっている可能性があるので、定期的に肛門腺絞りを行うとよいでしょう。

●肛門腺絞りのコツ

肛門囊は肛門を中心として、時計の4時と8時の位置にあります。絞るときには猫を立たせてシッポを持ち上げ、左右の肛門囊に親指と人差し指を当てて、押し上げるように絞ります。ニオイの強い分泌物が出てくるのでティッシュなどを当てて行い、絞った後にはお尻のまわりを軽く拭きます。

肛門腺絞りにはコツが必要ですので、最初は動物病院などで絞り方を教えてもらうとよいでしょう。肛門は猫が触られるのを嫌がる場所ですし、固くなっている分泌物を無理に絞りだそうとすると肛門嚢が破裂してしまうこともあるので、自宅でうまくできないときには動物病院で定期的に絞ってもらうことをおすすめします。

日頃からお尻のまわりをチェック

猫は毎日の毛づくろいのときにお尻も自分でしっかり舐めてきれいにしますが、肥満の猫では舌が届かずにお尻が舐められないこともあります。また、高齢になると毛づくろいの回数が減ったり、肛門括約筋が衰えたりしてお尻が汚れがちになります。

お尻がムズムズしていれば猫は落ち着きませんし、ストレスにもなります。お尻の周りが汚れていないか、肛門囊に分泌物がたまっていないか、普段からお尻周りもしっかりとチェックしましょう。

(監修:石田卓夫先生)