飼い主さんに、家の中の物に、宅配便にスリスリ。そのわけは?[獣医師アドバイス]
猫が頬やおでこ、体を飼い主さんや家の中の物、届いた荷物などにスリスリとこすり付けるしぐさは可愛らしいもの。すり〜っと1回だけするときもあれば、熱心に何度もこすり付けることもあります。この行動に込められた意味を解説します。
スリスリは、自分のニオイを付ける「マーキング」の一種
猫は嗅覚が優れた動物で、ほかの猫が発するニオイの分子(フェロモン)を敏感に察知することができます。猫が人や室内の物にスリスリするのは、ニオイで自己主張を行う「マーキング」の一種。周囲を自分のニオイで満たすことで安心感を得ようとしています。
目立つところへのスリスリは「強い主張」
とくに頬や額はフェロモンの分泌が盛んで、よくこすり付けるのもこれらの部位です。猫がスリスリしたがる絶好のスポットは、壁や家具の角や柱などの出っ張っている場所。「目立つところ」にすることで、「ここは自分の場所!」と強く主張することができるのでしょう。
仲がいい猫や飼い主さんには“ご挨拶”の意味も
気を許し合っている猫同士でも挨拶代わりのコミュニケーションとしても見られる行動で、飼い主さんにスリスリするのも、親愛の行動といえるでしょう。飼い主さんの足に軽くすり〜っと1回だけして通り過ぎていくような場合も、軽いご挨拶のようなものと考えられます。
飼い主さんの帰宅時や入浴後は、スリスリしやすい
飼い主さんが仕事や外出先から帰ってきたときに「待ってました!」とばかりに近寄ってきて、足やカバンに熱心にスリスリする猫もいます。甘えたいという気持ちもあるかと思いますが、もう一つの理由は、帰宅した飼い主さんの体や持ち物には、外のさまざまなニオイが付いているから。人には感知できない外の情報をニオイからキャッチして、自分のニオイを“上塗り”しようとしているのでしょう。届いたばかりの宅配便にスリスリするのも、同様の意味があると考えられます。
お風呂から出た飼い主さんにスリスリすることが多いのも、せっかく付けたはずの自分のニオイが消えてしまったから。石鹸の香りがする飼い主さんに、新たに自分のニオイを付け直そうとしているのでしょう。
“いいこと”を覚えて、おねだりのためにすることも
飼い主さんに何度もスリスリする積極的な猫もいれば、あまりしない猫もいます。頻度は猫の性格にもよるようです。ほかにも、これまでの経験から飼い主さんにスリスリするようになる猫もいます。「ドアの近くでスリスリしたら開けてもらえた」「飼い主さんがソファに座っているときにスリスリしたらなでてもらえた」など、スリスリの結果、“いいこと”が起きると、その体験を覚えて繰り返しするようになるのでしょう。
スリスリは好きなだけさせてあげて
何度もこすり付ける場所には、皮脂が付いて黒ずんでしまうことがありますが、その黒ずみも猫にとっては“安心のマーク”。許容できるようなら拭き取らずにそのまま残してあげましょう。「爪とぎ」や「スプレー行動(オシッコを壁などの垂直面にする)」といった他のマーキングと比べても、スリスリはそれほど実害がない行動です。料理中や在宅ワークで集中しているときなどは困ってしまうかもしれませんが、可能な範囲で好きなだけさせてあげると、愛猫との距離を縮めることができるでしょう。
(記事監修:服部幸先生/東京猫医療センター院長)