知っていれば怖くない!猫から人に感染する病気とその予防[獣医師アドバイス]
感染症の中には動物から人に感染する「人と動物の共通感染症」があります。その中には猫から人に感染する病気もありますが、正しい知識を持って猫とつき合えば予防できるものがほとんどなので、心配しすぎることはありません。
人と動物の共通感染症ってなに?
「人と動物の共通感染症」は、人と動物の両方に感染する病原体によって発症する感染症で、「人獣共通感染症」「動物由来感染症」ともいいます。「狂犬病」「エボラウイルス病(エボラ出血熱)」「鳥インフルエンザ」などがよく知られており、WHO(世界保健機関)が確認しているだけでも200種類以上あるといわれています。ただし、そのうちのほとんどが野生動物などからの感染で、猫や犬などペットからうつるものはごくわずかです。
猫から人にうつる病気にはどんなものがあるの?
猫から人へは、おもにひっかかれたり咬まれたり舐められたりすることで感染し、猫に寄生したノミやマダニに刺されることで感染することもあります。また、人には症状が現れても猫は無症状のものもあります。ここでは、猫の飼い主が知っておきたい猫からうつる可能性のある主な感染症を紹介します。
●猫ひっかき病
病原体は健康な猫の体にもいるバルトネラ菌で、病名の通り猫にひっかかれたり咬まれたりすることで感染します。この菌に感染したノミに刺されて感染することもあります。バルトネラ菌がいても猫は無症状ですが、人では傷口がずきずき痛み、リンパ節が大きく腫れるのが特徴で、発熱や倦怠感をともなうこともあります。
●パスツレラ症
猫や犬の口の中などにいるパスツレラ菌によって感染します。猫では無症状ですが、猫に咬まれたり引っかかれたりして人の体内に入ると、約30分~数時間後に激痛と発熱をともなう傷口の腫れがみられ、ひどく化膿することがあります。舐められて口や鼻などの粘膜から感染すると、気管支炎や肺炎などの呼吸器症状を引き起こすこともあります。
●Q熱
犬や猫が保有しているコクシエラ菌を吸い込むことで感染します。免疫力の弱い老人などでは、急性期には発熱や頭痛などインフルエンザのような症状が現れ、また慢性型になると長引く微熱、倦怠感などのはっきりしない症状が続きます。長い間、原因不明とされていて、「Query fever(不明な熱)」と呼ばれていたことが病名の由来です。
●SFTS(重症熱性血小板減少症候群)
マダニが媒介するSFTSウイルスによって感染します。猫も人も元気や食欲がなくなり、黄疸、発熱、下痢や嘔吐などの症状がみられます。白血球や血小板が減少し、重症化すると死に至ります。致死率は60%と高く、飼い猫から感染して飼い主が死亡した例も報告されています。外に出る猫にはマダニの駆除をし、飼い主もマダニに咬まれないように注意しましょう。
●皮膚糸状菌症
皮膚糸状菌というカビ(真菌)が皮膚に生える病気です。猫では頭や首、足などによくみられ、感染した部分が脱毛して赤くなります。人が感染すると皮膚に丸い赤みができ、軽いかゆみが出ることもあります。健康な皮膚はバリアで守られていますが、免疫力が低下したり皮膚が弱ったりしていると感染しやすくなります。
●トキソプラズマ感染症
トキソプラズマという原虫の虫卵(オーシスト)が体内に入ることで感染します。感染源の虫卵は猫の糞便の中にだけ排出されますが、24時間たたないと感染力を持たないため、猫の便はすみやかに片づけることで心配はありません。豚でもよく感染がみられ、人には加熱不十分の豚肉を食べることによって感染します。妊娠初期の人が感染するとごくまれに流産や生まれた子どもに水頭症が現れることがありますが、多くの場合は感染しても無症状で、気づかぬうちに感染して抗体を持っている人には再度感染することはありません。
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このほか、「瓜実条虫症」「犬・猫回虫症(幼虫移行症)」「疥癬」などもあります。
猫に咬まれたりひっかかれたりして傷口が腫れたり、当てはまる症状が見られる場合には病院を受診しましょう。このとき、猫と暮らしていることを伝えることが重要です。
正しく猫とつき合えば予防できる
猫は人との長いつき合いの歴史から、人間にとっては安全な伴侶動物であることがわかっています。猫を感染源にしないために、通常の衛生的配慮が有効です。
●猫の飼育環境を清潔に保つ
猫の排泄物は速やかに片づけ、猫トイレも定期的に洗ってください。抜け毛やフケをためないように部屋をこまめに掃除することは基本です。猫が口をつける食器は毎日洗い、猫のベッドやタオルなどもこまめに洗いましょう。
●猫と濃厚接触は避ける
猫とキスをする、顔を舐めさせる、口移しで食べ物を与える、食器を共有するなどの行動はやめましょう。猫トイレの片付けをした後はもちろん、猫とふれ合った後はこまめな手洗いを習慣にしましょう。
●猫の健康管理はしっかりと
外出する猫ではノミやマダニ、寄生虫の駆除・駆虫を行います。屋内飼育が可能ならそれが安全です。日頃からブラッシングや歯磨きを行い、体を清潔にしておきましょう。ひっかかれないように猫の爪をこまめに切りましょう。また猫の健康を維持するためにも、定期的に健康診断を受けることも重要です。
●人の体調管理も万全に
猫からうつる可能性のある感染症は健康な人には発症しないものがほとんどで、体力や免疫力が落ちているとかかりやすくなります。飼い主自身が健康管理をしっかり行いましょう。小さな子どもや高齢者、糖尿病などの慢性疾患がある人は感染リスクが高くなりますから、そのことを意識し、節度を持って猫と接してください。
(監修:石田卓夫先生)