もしも介護が必要になったら?シニア犬の介護の心構え[獣医師アドバイス]

「超高齢社会」の日本では、犬も長寿高齢化が進んでいて、平均寿命は14歳を超えています。犬の14歳を人の年齢に換算すれば、小・中型犬で70代前半、大型犬では90代です。愛犬と長く一緒にいられるのはうれしいことですが、一方で犬の「介護問題」に直面するケースも増えてきました。高齢犬のケアと介護が必要になったときの心構えについて解説します。

高齢犬に現れる体と心の変化

人と同様に、犬も高齢になると老化によって体にさまざまな衰えが出てきます。聴覚が低下して音が聞こえにくくなったり、吠え声が大きくなったりすることがあります。また白内障によって目が見えづらくなると、物によくぶつかるようになります。筋力が低下すると、長時間歩くことを嫌がったり、歩くときに足がもつれてふらついたりすることもありますし、消化機能が低下すれば、下痢や便秘になりやすくなったり、消化酵素の分泌量が減って栄養の吸収率が落ちたりします。

また、「気性が荒くなった」「頑固になった」「おだやかになった」など、性格の変化を感じることもあるかもしれません。けれども、実は聴力や視力の低下による不安でイライラしていたり、人の気配に気づかずに触られて驚いたりしていることもあります。体の痛みから触られるのを嫌がったり、体の不調でやたらと甘えてくることもあります。
このように、体、行動、心はリンクしていて、それが変化として現れてきます。

「介護」=「寝たきり」ではない

犬も高齢になると今までできていたことができなくなったり、体の機能や免疫力の低下によって病気にかかりやすくなったりします。食事やトイレの介助が必要になったり、認知症で夜鳴きや徘徊などの行動が現れてサポートが必要になることもあります。

「介護」というと「寝たきり」=「大変」と思うかもしれませんが、すべての犬が寝たきりになるわけではありません。最後まで自分で歩き、自力で食べたり排泄したりできる犬もたくさんいます。むしろ、寝たきりにさせず、自立して暮らせる時間を長くするケアが重要です。

よかれと思ってやったケアが老化を早めることも!

「介護」では、できないことの世話をすることだけではなく、できないことがあっても今の状態をなるべく維持して、QOL(クオリティ・オブ・ライフ/生活の質)を高めるためにフォローすることが重要です。早めの対処が肝心ですが、世話を焼きすぎたり、体に負担をかけないように控えたり、よかれと思ってしていることがかえって老化を早めてしまうこともあります。

たとえば、足腰が弱ってきたからといって散歩に連れて行くことをやめれば、ますます筋力が衰えてしまうでしょう。散歩を控えるのではなく、距離や時間を短くしたり、段差のある道は避けるなどコースを調整したりしながら、続けることも大切です。外出は脳を活性させる刺激にもなります。

また、年をとったからもう遊ばないだろうと遊びを控えてしまうのもよくありません。走ったりジャンプしたりなど激しい遊びは無理でも、知育玩具を使ったおやつ探しなど、嗅覚や視覚を使う遊びは脳トレにもなります。

高齢になると寝ている時間も増えますが、そっとしておこうと寝かせてばかりいるのでなく、時々声をかけたり、体を撫でてマッサージをしたり、スキンシップを図ることも大切です。

介護の心構えは一人で抱え込まないこと!

自力で「歩けない」「立てない」「食事ができない」という状態になるとさらに細やかなケアが必要になり、飼い主の負担も大きくなってきます。体の大きな中・大型犬が寝たきりになると、床ずれ予防のために寝返りを打たせるだけでも飼い主は体力勝負となります。また認知症になると、徘徊などの異常行動や夜鳴きなどで飼い主の生活が乱され、大きなストレスになることもあります。

人の介護と同様、愛犬の介護とうまく向き合うコツは「一人で抱え込まないこと」。経済的・時間的・体力的に無理をせず、家族と協力し、獣医師とも連携しながら適切なアドバイスを受けましょう。最近ではさまざまなペット用介護用品もありますし、愛犬の介護経験者から情報を教えてもらうのもよいでしょう。

介護というといろいろ不安になるかもしれませんが、それだけ長く一緒にいてくれたという証です。「長生きしてくれてありがとう」という感謝の気持ちで、前向きに取り組みたいものです。

(監修:石田卓夫先生)