「噛む・引っかく」問題は、理由を考えて対応しよう[獣医師アドバイス]

猫が人を噛んだり、引っかいたりする攻撃行動。飼い主さんが傷を負うだけでなく、関係性が損なわれてしまったり、猫の唾液や爪の中に含まれる病原体が人に感染するリスクもあります。

単純に「噛む」「引っかく」といっても、猫からすればさまざまな“事情”があります。やめさせるには、猫が「なぜ攻撃してしまうのか」を考えながら対処することが大切です。ここでは猫が飼い主さんに攻撃しやすい代表的なケースと、状況ごとに考えられる原因・対処法を解説します。

理由1 ケガや病気による痛みなどで

これまで問題なく触らせてくれていた猫が、なでるときに急に抵抗して攻撃するようになった場合、その部位に痛みがある可能性があります。皮膚に傷が見られなくても、内臓疾患や腰椎に痛みがある場合も。特に腰を触ると嫌がるようなケースは多く、腰椎の痛みが影響しているのかもしれません。

また、髄膜腫などの脳の病気、高齢猫がかかりやすい甲状腺機能亢進症などによって攻撃性が増すこともあります。これらの場合、治療が先決です。獣医師に相談しましょう。

理由2 動くものを獲物のように感じて本能的に

獲物を追いかける習性から、人が動かす手や足に本能的に反応して攻撃してしまうことがあります。「甘噛みなら痛くないし…」と子猫のうちから手足で遊ばせていると、成長後も続いて深い傷を負うことに。遊ばせるときは、猫用のおもちゃを使いましょう。また、遊び中に興奮からエスカレートして飼い主さんを攻撃するようになったら、そっと離れてクールダウンさせます。

理由3 スキンシップやお手入れに恐怖心を感じて

飼い主さんになでられたり、お手入れなどをされる際に「怖い」と感じて、自分の身を守ろうとするために攻撃してしまうことがあります。初めのうちは猫も気持ちよさそうにしていても、されているうちにだんだん恐怖心を募らせてしまうことも。以下のような対応で、攻撃を防ぎましょう。

●急所のお腹、敏感な足やしっぽなど、愛猫が触られるのを嫌がるなら触らない
●爪切りなどのお手入れ、スキンシップ、抱っこは、「やめて」のサインが見られる前にやめるようにする 

<猫の「やめて」のサイン>
・耳を後ろに倒す
・しっぽをブンブン振る
・目を見開く
・毛が逆立つ など

理由4 ほかの猫などに対する恐怖から「八つ当たり」で

外に見えるノラ猫や力関係が強い同居猫への恐怖心や、「縄張りに侵入される…」というストレスなどから、飼い主さんに対して八つ当たりで攻撃することがあります(「転嫁行動」といいます)。ノラ猫が見えないように家具などの配置を変えるなど工夫する、同居猫との生活スペース(特に重要なのは食事・トイレの場所)を分けるなど対応しましょう。

環境を整えて、本能的な欲求を満たせるように

狩りや運動の欲求を満たしにくい環境では、猫もストレスを溜めやすくなります。欲求不満は攻撃行動にもつながるので、室内飼いでも猫がいきいきと暮らせるように、上下運動できるスペースを用意したり、1回5分程度でもいいので1頭ずつしっかり遊んであげましょう。また、猫が恐怖心を感じたときに追い詰められないように、身をすっぽり隠せる居場所も用意しましょう。

深刻なケースでは、薬物療法も

大ケガを負うほどの猛烈な攻撃行動が続く場合など、飼い主さんが手の施しようのない深刻なケースも中にはあります。去勢・避妊手術、フェロモン剤を使った療法、神経伝達物質の量を変化させる薬物療法などが有効な場合もあるので、動物病院に相談しましょう。最近では、こうした問題行動を専門的に扱う「行動診療科」の獣医師もいるので、探してみてもいいでしょう。

(記事監修:服部幸先生/東京猫医療センター院長)