中年以上になったら気をつけたい!犬の慢性疾患[獣医師アドバイス]

犬の慢性疾患にはいろいろな病気があります。じわじわと進行していくものが多いので、なるべく初期の段階で発見して早期に治療を開始して、上手にコントロールすることが大切です。

高齢化によって慢性疾患も増加

慢性疾患とは、徐々に発症して治療や経過が長期に及ぶ病気の総称です。初期では目立った症状がほとんどなく、かなり進行してから気づくものもたくさんあります。加齢に伴う機能の低下によって発症する病気もあり、犬も長寿・高齢化によって慢性疾患が増えているといわれています。

加齢、体質、生活習慣……犬に多くみられる慢性疾患

慢性疾患の原因は加齢のほかに、その犬の体質、食事や運動など生活習慣が引き金になるものもあります。犬の代表的な慢性疾患には次のものがあります。

●糖尿病 〜遺伝や肥満も要因の1つ
膵臓から分泌されるインスリンは、細胞の中に糖を送り込み、血糖値(血液中に含まれるブドウ糖の濃度)を下げる役割のあるホルモンですが、なんらかの原因で不足したりうまく作用しなくなったりすると、慢性的に血糖値が高くなります。細胞の中に糖が入って行かないため、体はもっと糖が必要と誤解して、脂肪を分解して血糖値が高くなると、腎臓はそれを再吸収できなくなり、糖が尿に出てしまうことで「糖尿病」とよばれます。多飲多尿、よく食べるのにやせるのが典型的な症状で、進行すると白内障や腎疾患、肝疾患などの合併症が現れます。さらに悪化すると糖尿病性ケトアシドーシスという状態になり死に至ることもあります。原因は自己免疫疾患で膵臓のインスリンを出す細胞がこわされることが主なもので、さらに膵炎やクッシング症候群などによってインスリンが出なくなったり、インスリンの効き目が悪くなるものがあります。治療はインスリンを注射で補ったり、食事療法を行ったりして症状をコントロールします。

●僧帽弁閉鎖不全症 〜小型犬に多く、夜間に乾いた咳が出る
心臓の左心房と左心室の間にある僧帽弁がうまく閉じなくなり、血流の流れに支障を来す病気です。「慢性心不全」とも呼ばれます。マルチーズやポメラニアン、ヨークシャーテリアなど小型犬に多く、5〜7歳頃から徐々に進行し、10歳以上で症状が現れます。キャバリア・キングチャールズ・スパニエルの遺伝性疾患としても知られています。初期では運動をしたがらない、疲れやすいなどの症状がみられ、進行すると夜間に乾いたような咳が出るのが特徴で、悪化すると呼吸困難になることもあります。完全に治すことはできませんが、薬で進行を抑える治療が行われます。

●慢性腎臓病 〜初期段階はほとんど無症状
何らかの原因で長い年月をかけて腎臓がこわれ、その機能が徐々に低下していく病気です。猫の代表的な慢性疾患ですが、高齢の犬でもみられます。初期の段階ではほとんど症状が現れず、多飲多尿の症状が現れる頃には、すでに腎臓の機能の3分の2が失われているといわれています。さらに進行すると、貧血、毛づやがなくなる、食欲不振、嘔吐などの症状が現れ、腎臓の機能のほとんどを失うと尿毒症になります。
一度失われた腎臓の機能を元に戻すことはできませんが、進行を遅らせるために、腎臓に負担のかかるタンパク質、リン、ナトリウムを制限した療法食による食事療法が行われます。

●変形性関節症 〜大型犬に多く慢性的な痛みを伴う
骨と骨の間にある軟骨がすり減ることで関節がなめらかに動かなくなって炎症が起こります。肘、肩、膝、股関節などさまざまな関節で発症し、脊椎に起こった場合は【変形性脊椎症】と呼ばれます。中高齢以上の犬に多く、小型犬よりも大型犬で特に多くみられます。少しずつ進行し、初期では運動を嫌がる、階段を上りたがらない、ジャンプできなくなるなどのしぐさがみられ、進行すると足をひきずったり、痛がったりするようになります。鎮痛剤や抗炎症剤などを用いて、痛みを和らげる治療を行います。

●アトピー性皮膚炎/アレルギー性疾患 〜原因を突き止め、取り除くことが大事
犬でも人と同様にアレルギー疾患が増えているといわれています。【アトピー性皮膚炎】はハウスダストやイエダニ、花粉などのアレルゲンが皮膚から吸収されることで、慢性的なかゆみを伴う皮膚炎が起こります。アレルギーに関与する抗体IgEを作りやすい体質がアトピーで、おそらく遺伝するものと考えられています。したがって若いうちに、1〜3歳くらいで症状が出始めます。
ペットフードなど食べ物に含まれる成分に対するアレルギー反応が起こる【食物アレルギー】では、かゆみを伴う皮膚炎の他に慢性の下痢などの症状がみられることもあります。
アレルギーの元となる原因を突き止め、取り除くことが重要です。かゆみのある皮膚炎の場合は、内服薬、外用薬などの投与や、定期的なシャンプーなども重要です。

早期発見で上手にコントロール

慢性疾患は少しずつ進行するために初期では発見しにくく、発症すると完治が難しい病気もたくさんあります。軽症のうちに治療を開始して症状を抑えることで進行を遅らせることができます。年1回以上は定期健診を行って、早期発見することが重要です。また、肥満は慢性疾患の引き金になったり悪化させたりするので、食事や体重の管理もしっかり行いましょう。

(監修:石田卓夫先生)